2023-01-01から1年間の記事一覧

稲刈りのその後

稲刈りが好きかもしれない、と気づいたのは、草むしりをしていた時だ。 延々と草をむしりながら、これが収穫物だったら嬉しいのにな、とふと考えた。 稲刈りとか? いいな、やってみたい。 そんなことを思ってから、実現するのにはそんなに時間は掛からなか…

稲刈りツアー 5

次の日の朝、泊まった民宿の前までバスが迎えにきた。 バスのドアが開くと、子どもたちがまず乗り込む。 それから子どもたちの家族や保護者、女性グループ、夫婦参加者と何となく年齢別に乗り込んだ。 山田さんともう一人、20代参加者の女性が話しながら列に…

稲刈りツアー 4

稲を竹竿に引っ掛けて稲垣に仕立てると、稲刈りは終了である。 みなさん温泉に行きますよーー集合してくださぁい。 田植えと違って泥だらけということはないが、稲藁にまみれて何となくカサカサ痒いような気がする。温かいお湯に浸かってサッパリしたいと思…

稲刈りツアー 3

ひとりひとりに鎌を渡し、高田さんがまず見本を見せた。 「こうやって逆手に稲を一掴みにして、根本から10cmくらいのところをザクっとね。勢い良すぎて足を切らないよう気をつけて。 それを3回繰り返して一束にして、三束重ねたら、藁でまとめるの。こう根…

稲刈りツアー 2

バスが出発してすぐ、この席になったことを後悔した。 とにかく狭い。 隣になった男性は、山田と言います、と名乗ってぺこりと頭を下げた。 アイドルのような風貌で10代にしか見えない。学生さんですか? いや、学生じゃないです26なんですもう、と言って…

稲刈りツアー

仕事でお世話になった農業団体が、3年ぶりに稲刈りツアーを開くと連絡をくれた。 「行きます!ずっと楽しみにしていました」とメールに返信しながら、同行者はどんな人がいるのだろうと少し不安を覚える。 このツアーはもう20年以上も毎年開催されていて、毎…

8月の手紙

お元気ですか。 今年の8月は過酷でしたね。 9月になって10日、ようやく暑さがピークを過ぎたことを感じられるようになりました。 何だか、やっと息がつけた感じです。 今年の夏は、どんな夏でしたか。 私は、暑さからか更年期の症状なのか、精神的な不調が慢…

葬儀の日 3

義母はネルのパジャマの上に紫色のフリースを着て、厚手の毛布にくるまって寝ていた。 もう6月だよ暑いんじゃない、と夫を振り返るが、寒がるんだよと言って、さらに毛布を首の下まで引っ張り上げた。 食事を摂れなくなって、点滴をするようになってから2ヶ…

葬儀の日 2

義母が入院した病院は隣町にあった。 実家のある市内には「まともな病院がない」と夫はいう。 義母が不調を訴えた時、まともな医療を受けられる場所を探したら、この病院しかなかった。 田んぼの真ん中の市道を走っていると、巨大な団地が見えてくる。 団地…

葬儀の日

「どうしよう、もってあと1ヶ月あるか、ないか、だって」 夫が動揺した声で電話をかけてきた。 どうしよう、じゃないよ。 時間がないんだから、思いつく限りのお義母さんの知り合いに連絡を取って、会いにきてもらうんだよ。 私たちも最後のお別れに行かな…

葬儀の日

「どうしよう、もってあと1ヶ月あるか、ないか、だって」 夫が動揺した声で電話をかけてきた。 どうしよう、じゃないよ。 時間がないんだから、思いつく限りのお義母さんの知り合いに連絡を取って、会いにきてもらうんだよ。 私たちも最後のお別れに行かな…

市役所のカースト制度

雨の降る中、久しぶりにママ友と3人で集まり、ランチに行く。 近所の創作フレンチのお店がビストロ居酒屋に改装していて、話題になっていたのだ。 AちゃんママもBくんママも、息子が小学生の頃からの友達だ。 久しぶりー元気だった〜と言いながら店に入る。…

絵を描くのに意味なんかないけれど

昨日は娘の学校の「進学説明会」だった。 進路についてのガイダンスや卒業生の現在の報告講演があったのだ。 なかなか聞けない話をたくさん聞けて、有意義だった。 4人の卒業生が登壇し、パワーポイントのスクリーンを示しながら、受験時の苦労や就職活動の…

義母の家 2

義母の家は、家族の黄金期の思い出に埋もれている。 家中の壁や階段の踊り場には、子供達が描いた絵や習字、表彰状がかけられており、義母の趣味の日本刺繍の壁掛けはその隙間に控えめに飾ってあった。 フェイク暖炉のマントルピースの上には、墓標のように…

K明党に八つ当たり

義母のせん妄が激しい、らしい。 らしいとするのは、私と話しているときはまともだからだ。とは言っても、もう4年以上直接会っていない。電話で二言三言、日常会話を交わすくらいだ。 嫁と息子では気やすさも違うし、私と話す時にはまだ緊張感が残っているよ…

カナミちゃんとタペストリー

大学に入って初めて声をかけた友達がカナミちゃんだった。 身長150cmない小柄で細身の後ろ姿を見て、なんとなく同い年だと思い、声をかけたのだ。 振り返った彼女は、淡い麻色の髪の毛を腰まで伸ばし、ブカブカのパーカーと裾を折ったジーンズを履いていた。…

コロナ明けと桜前線

あんなに頑張って勉強して入った大学だったのに、入学した途端にコロナでリモートになった。 しかし息子はサバサバした顔で、オンラインや映像授業に何なく馴染み、かえって好都合と大学生活とバイトとコロナの巣ごもり生活を楽しんでいた。 ライン通話やス…

天井の眼

あれは目なのよ、と母が言う。 いつも見てるの、見張ってる。 言いながら、虫を追い払うかのように手を二、三度振った。 母の視線の先にあったのは天井のシミだった。 シミの見えない場所へ、ベッドを移動させたり枕の位置を変えてみたりしたが、母はまた別…

あみだクジの線から下りる

AIの進歩がすさまじい。 ChatGPTとかMIdjourneyとか、クリエイティブに関わる分野に到達するには、もう少し時間がかかると思われていた予想が、完全に早まった感ある。 もうシンギュラリティはおきているのでは。 ここ半年ほどで急に進歩して、巷に雪崩れ込…

義母の家

結婚すると決めた後、夫に連れられ実家へ挨拶に行き、初めて夫の母にあった。 それまで「おかあさんってどんなひと?」と聞いてきたエピソードが結構強烈だったので、かなり緊張していたのだが、迎えてくれた義母は明るく優しく気さくで、安堵したことを覚え…

野菜ってヘルシーなわけではない

今通っている美容院は、もう12年通っている。 元は極真空手の道場だったが、ある日突然おしゃれなカントリースタイルの店舗がオープンして周囲の噂になった。飛び込みで入ったら、感じよく腕も良く、それ以来一年に数回通っている。 美容師さんが男性の場合…

ドローンから見下ろすのは私(改)

「お袋が言うんだよ、誰かが盗聴してる。財布からお金を取っていくって」 夫は2週間おきに実家へ義母の介護に行っている。一度行くと1週間は帰ってこない。 前回行った時は「俺の顔もわからなくなってきてる。いよいよヤバいかも」と不安げだった。 認知症…

王国に従わない者たちの祭宴

高校の同級生、ナベちゃんとヒガシ君とは30年近い付き合いの仲だが、先日意外な共通点があることを知った。 実は私、ディズニーランドに行ったことがないんだよね… と、ナベちゃんの告白から始まった。 あーー俺も 同意しながらヒガシくんは、正確には一度だ…

夢の中でもスマホを見てる

新居へ義弟から携帯に連絡があって、駅前に向かっている。 引っ越したマンションは駅の上に立つ団地のようなところで、エレベーターで降りるとすぐ目の前が改札口だった。 改札の向かいには、スーパーや商店街のような個人商店があって生活には至極便利だ。 …

エルピスの違和感

新年会を兼ねて集まった父母会での席で、去年話題になったドラマの「サイレント」を私だけが見ていなかった。 「エルピス」は見たよと言ったら、私だけしか見ていなかった。 こういうとき、世間一般と自分自身の感性のズレを感じる。 でも仕方ないか、ともは…

新年を加工食品と寿ぐ2023

あけましておめでとうございます。 今年のお正月は3年ぶりに弟家族と実家で集えた。 高齢両親がとりあえず健康で健在であることの幸せを、何物にも代え難いとしみじみ祝った。 3年ぶりに会った甥っ子たちは成長著しく、前回会ったときは小学生だったKちゃん…