稲刈りツアー

仕事でお世話になった農業団体が、3年ぶりに稲刈りツアーを開くと連絡をくれた。

「行きます!ずっと楽しみにしていました」とメールに返信しながら、同行者はどんな人がいるのだろうと少し不安を覚える。

このツアーはもう20年以上も毎年開催されていて、毎年参加する常連さんが大勢いると聞いていた。コロナでブランクができたとはいえ、参加者のほとんどはリピーターだろうし、私のようなぽっと出が参加して浮かないだろうか。

場に馴染む、は私が最も苦手なことのひとつだ。

コミュ障と言われても仕方ないが、なるべく息を潜めて存在を消し、喋らずにひっそりと後ろにいるくらいしか対処が浮かばない。

それでも稲刈りはやってみたい。

去年の秋、打ち合わせで現地に来て、見渡す限り黄金色の稲穂の海を、久しぶりに見た。

コンバインがモーゼの海割りのごとく稲を薙ぎ倒し、刈ってゆく様を見て、やってみたい!と言ったら、手刈りならツアーがあったんだけどねえ、と観光課の課長・高田さんが言った。

来年は復活させようという話もあるよ。良かったら参加します?

多分、社交辞令だと思われたようだが、私は食い気味で返事をした。

行きます!参加させてください!!あの、新米食べられますよね?

単なる食いしん坊である。

炊き立て銀シャリに惹かれて、せっせと仕事を片付け、ツアー当日に指定の場所へ行くと、老若男女がリュックやらカートやらの大荷物を持って集まっていた。

幼児、幼稚園生、小学生の兄弟とその親、という組み合わせのファミリーが2組。

50~60歳くらいの年配の女性、5人のグループ 。

50歳前後の夫婦、2組。

30歳前後の単独参加者、男女一人づつ。

参加者は20名ほどだった。

聞くと、コロナ前からのリピーターは女性グループと夫婦の1組だけで、他は初参加らしい。

前に職場の同僚が参加して良かったって聞いたから、行ってみたかったんです。

ちょろちょろ動き回る3歳くらいの女児を抑え込みながら、家族参加者のお母さんが言った。

シングルママかと思ったら、夫は乗り気じゃなかったから置いてきたと笑った。

もう1家族は、おっとりした感じの30後半パパとママが、よく似た雰囲気の小学生兄弟と「楽しみだねえ」と話している。

その横で、10歳前後の男の子と5歳くらいの男の子がゲーム機で対戦をしているが、この子達の親はどっちだろう。

見回していると、出発しまあすと声をかけられた。

バスに順番に乗り込む。

先に飛び乗った子供達が一番奥の席を独占して座り、必然的にその前の席に座る。

その途端、しまったと思った。

非常出口前で、席の幅が他より狭かったのだ。

子供達と席代わって欲しいな、と言い出そうとすると、隣に単独参加者の男性が座ってしまった。

その横の並びに女児と母親が座り、あらぁよろしくお願い致しますねと母親の方が挨拶しているのが聞こえる。女児が大きな声で言った。

「うわ〜わっかーーい、イケメンねぇ」

無邪気な声の調子にバス内がドっと沸いた。

ちょっと冷やっとしたものを感じて、イケメンと言われた隣の人を盗み見ると、一緒になって笑っていて安堵する。

いや、別にこともなげなことだけど。