ペア幻想の終焉

手袋とイヤリング。

この2つは、私の落としやすいものTOP2である。

手袋は、脱いだりはめたりが多い電車の中で落としやすい。1シーズンにひとつは無くす。

イヤリングは、金具をどんなにキツくしても、わたしの薄い耳たぶをすり抜けて、いつしかヤモメになっているもの多数。

 

手袋は圧倒的に右手を無くしやすく、残っているのは左手ばかりで、マッチングさせて使うには、需要と供給のバランスが悪すぎる。

同じ赤だから、と皮手袋と毛糸の手袋を嵌めてみたが、他人同士を無理に夫婦にしているようで落ち着かなかった。片方はつるりと皮の感触がするのに、もう片方はザラザラしていて、本音と建前の違う人と会話をしているような違和感があるのだ。

 

黒の毛糸手袋無地など条件を決めてしまえば、無くしても繰り上がり補充方式で、いつも両手揃って温かくて良いかもしれない。

でも、そうすると片方無くすたびに毎回、揃いの2人を引き裂いて、嫁を亡くした義兄の後添えにするような後ろ暗い気分にさせるのか。

やだな、恨まれそう。

無理にカップリングさせる必要は無いかもしれない。

やはり手袋は2つ揃ってひとつなのだと割り切る方が、精神衛生上良いようだ。

 

その点、イヤリングは雰囲気の似た2つを再マッチングさせて使うのに然程、抵抗がない。

シングルになっても活躍の場がある。

片方だけにつけることで、アシンメトリーで洒落た印象になったりする。

 

孔雀の羽にビーズのフリンジがついたイヤリングは、揃いでつけていたときは顔の両脇に縄のれんが下がっているようで気に入っているとは言い難かったが、片耳だけの方が良いアクセントになると気づいてから、俄然、出番が増えた。

シングルになってからの方がイキイキしてる。

同じくシングルになった手袋(左手)は、ため息をついた。

いいね、キミは。活躍の場が増えて。僕なんか消えた相棒の分まで責任負わされてさ、片手で両手ぶん温かくなんて無理だよ、もう。

イヤリングは手袋を労った。

まぁまぁ、あんた頑張ってるわよ。偉いわよ。そんな気負わなくていいんじゃない?

右手がいなくなったのはあんたのせいじゃないし、もう少しの辛抱よ。

手袋(左手)が相棒の失踪によるPTSDから立ち直る頃、空気は緩み、彼の任務は終わりを告げる。

春が来たのだ。