王国に従わない者たちの祭宴

高校の同級生、ナベちゃんとヒガシ君とは30年近い付き合いの仲だが、先日意外な共通点があることを知った。

実は私、ディズニーランドに行ったことがないんだよね…

と、ナベちゃんの告白から始まった。

あーー俺も

同意しながらヒガシくんは、正確には一度だけ行った事があるんだけど、我慢できなくて途中で帰ってきちゃったんだよ小学生のときに、と続けた。

アンタ達も?とびっくりして私は妙にかん高い声で反応してしまった。

私は特にディズニーマニアな訳ではないが、何も考えずに小学生の時は家族と、学生時分のときはグループデートで、子どもが生まれてからはハロウィンやクリスマスといったイベントのときに、なんやかんやで一年に一度は詣でている。子ども達の卒業旅行でママ友と一緒に行ったこともあった。

しかし、私の周りの付き合いが長い友達は何故かディズニーランド・シーが苦手な人が多い。一度も足を踏み入れたことないというひとも結構いる。

年間パスを買って毎週のように行っている人もいるというのに。

 

ナベちゃん、ディズニーの何が嫌なの?

乗り物に乗らなきゃ行けないじゃない…私酔うんだよねと答えられて思わず絶句した。乗り物?アトラクションのことか。確かに三半規管にきそうなモノもあるけど、大部分は小さな子も楽しめるゆっくりした速度でなかった?

俺はね、着ぐるみがダメなんだよーとヒガシくんも言う。マジか!

そしたらさーーとヒガシくんは急に照れたような声になり、カミさんも嫌いなんだよねーーディズニーランド。あれはエレガントじゃないとか言ってさ。

ちなみに彼の奥様はフランス人である。野暮なモノ、幼稚なものが嫌いなフランス人のイメージ通りで大変納得。

でも、子どもは行きたがらないの?と聞くと2人はそれなんだよねーと2人揃ってため息をついた。積極的な態度は見せないけれど。学校の友達と行きたい、っていうなら行っておいでって送り出せるのに。まだ親掛かりな年齢だしさ。無理してでも行く方が良いのか迷うよ…

ディズニーってなんか、陽キャの必須シチュエイション的な側面があるじゃない。

あのノリに乗れない者は人間じゃない、みたいな。

うんうんと3人してうなづく。学生時代から、そのノリについていけなかったからこそ仲良くなった3人でもある。

でもさ、もういいんじゃない。

三年前だったら、学校の友達との話を合わせるために無理してでも行った。

もう、そんな時代じゃないでしょ。

だってスペースマウンテンに乗るより、カリブの海賊を見るためよりも、水族館行ったり、国立博物館で一日過ごす方が私たち好きだろ?

子どももイヤイヤ行ってる親の態度って見透かすよ。

私たちはディズニー王国の入国資格を持てなかったのね。

だってディズニー映画のハッピーエンドなんか大嫌いだったし。

もうメジャーに憧れるふりしなくてもいいんだ。

 

二人を安心させるために黙っていたことがあった。

私の美大時代の友達はディズニーランドに興味ない勢が多いのは事実だが、中には熱狂的に好きな子もいた。

そういう子は、たいてい美意識が高い家庭に育ち、幼少期は自分の持ち物から服装、見るテレビ番組まで厳しく管理されていた傾向があるような気がする。

Aちゃんは両親共に建築デザイナーで、DCブランドの服を着て、おしゃれなデザイナー住宅に住み、自身もその道に進んだデザイナーのサラブレッドみたいな子だった。

けれど、持ち物全てに美意識を問われ、両親が許可したものしかテレビも雑誌も見ることができず、窮屈な思いをして育ってきたという。

「子どもの頃、デッサンが狂っているという理由で漫画を読むことを許されず、色彩感覚や音楽が醜悪といってアニメは見させてもらえなかった。A.A.ミルン原作のくまのプーさんは絵本をプレゼントされたのに、ディズニーのプーは黄色が下品と蔑んで見させてもらえなかったの。だから大人になってから初めてディズニーランドに行った時は感激したなあ」

まあ、そういう事例もある。

禁止されればされるほど好奇心も関心もつのるものだし。

なべちゃんもヒガシくんも、子ども本人が行きたいと言い出したならば連れてゆく人柄であることは確信持っているので、揉めたりはしないだろ。

でも、この日本人に広く浸透されている「ディズニーは善」的なものって何だろう。

宗教のようだ。

異端のわたしたちは、せめて子どもに強要しないよう努めるだけだが。

もちろん崇拝する自由も含めて。