葬儀の日 2

義母が入院した病院は隣町にあった。

実家のある市内には「まともな病院がない」と夫はいう。

義母が不調を訴えた時、まともな医療を受けられる場所を探したら、この病院しかなかった。

田んぼの真ん中の市道を走っていると、巨大な団地が見えてくる。

団地に見えたビル群は、病院の施設とその関係者の居住地、見舞客のホテルだった。その一角に巨大なイオンが隣接して立っている。

ここでもイオンなんだね〜と何気なくいうと、この病院の医療関係者の衣食住や入院患者の日用品、検査にきた患者や見舞客が時間を潰すのに行くのも、ここなのだという。

イオン無双やな。実際、めっちゃくちゃお世話になってる。ありがたいわ、と夫は言って車を巨大な駐車場の一角に停めた。

病院のエントランスの横にずらっと折り畳み車椅子が並んでいる。50台はあるだろうか。壮観だ。

それは、学校の体育館に備え付けの、折り畳みパイプ椅子の収納を思い起こさせた。

すごい数やろ、と夫は言って自動ドア横のガラス扉を開けて入っていく。

朝、病院へ来るとまず、このエントランスに車で乗り付けるん。
スタッフさんが待っていて、まともに歩けないような重病の人とか老人の患者を車椅子に乗っけて待合室に連れて行ってくれるんや。診察券と保険証も渡すと受付も済ませてくれる。その間に付き添いの家族は車を駐車しにいく。便利でありがたいことじゃ。もうさ、本当すごい人数が次々来るの。この車椅子全てが貸し出しになって足りなくなるくらいなんだ。

入り口を入ると、3階まで吹き抜けの広大なホールのような待合室に圧倒された。

視界の奥まで整然と長椅子が並べられ、教会のようだ。

平日の朝は、早朝から人がひしめき合い、雑音がすごくて、呼び出された名前が聞き取れないほどだという。

今は物音ひとつ聞こえない。

はるか上の方から日光が差し込んで、誰もいない長椅子を照らしている。

 

奥へ進むごとに、廊下が狭くなり、窓がなくなって暗くなる。

どん詰まりにエレベーターホールがあって、3機のエレベーターが並んでいた。

一番上、10階。夫がボタンを押して言った。

ホスピス病棟なんだ。関係者以外は立ち入れない。

エレベーターの扉が開くと、別世界のように明るく、目の前に屋上庭園があった。

看護婦さんに声をかけ、ナースステーションで受付をする。

庭園を囲む回廊のように病室が並び、扉一つ一つに花の名前と写真が貼ってあった。

お母さんはリンドウと言って夫は病室の一つを示し、子どもたちに言った。

あのさ、一応面会は一度に二人って決まってるんだ。

先に二人で入るから、ちょっと待っててくれるかな。

夫は私に目線を合わせうなづくと、病室に入って行った。