稲刈りツアー 4

稲を竹竿に引っ掛けて稲垣に仕立てると、稲刈りは終了である。

みなさん温泉に行きますよーー集合してくださぁい。

田植えと違って泥だらけということはないが、稲藁にまみれて何となくカサカサ痒いような気がする。温かいお湯に浸かってサッパリしたいと思った。

バスで10分ほどの温泉施設に移動する。

子供達は公園で走り回って遊び疲れているはずが、大きなお風呂に興奮MAXだ。

ユウト、皆さんにご迷惑かけないようにね、とはーちゃんママは言ったが、振り返りもせず、男の子たちは我先に男湯へ駆け込んでいった。

ママ早く!と待ちきれない様子で、はーちゃんははしゃいで歌い始めた。

小さな子の歌声を聞くのは久しぶり。和むなぁ。

ひとしきり体と髪を洗って、お湯につかる。

目をつぶり一息つくと、体の節々にお湯が染み渡るようだ。

その間にも歌声はサラウンドのように、あっちへいったりこっちへいったり、反響したりしなくなったりと忙しく、パタパタ足音やドアの開閉音が風呂場に響く。

はーちゃん、じっとして、お願い。

ママが髪の毛を洗いながら、はーちゃんの方を振り返り言う。

大丈夫、見てますよ、もうはーちゃんは体は洗ったの、と私は声をかけた。

そうよ、ほら一緒にお湯に浸かりましょ、と黒田さんが言い、女性グループが連携して、はーちゃんを取り囲む。

滑ると危ないからねーママを待ってようね。

ほら水鉄砲!と熟年の技を披露すると、わあ!と声をあげて喜んでくれた。

すみません!ありがとうございます、とはーちゃんママは、髪の毛をすすいでいる。

お風呂、プールみたいねと言いながらはーちゃんは笑った。

 

お風呂から出て集会室へ行くと、お疲れ様でした、冷たい飲み物です、と職員さんからペットボトルを渡される。

いつの間にか、山田さんも首にタオルを巻いて、フルーツ牛乳を飲んでいた。

懐かしい人に会えましたか?と聞くと、ちょっと言葉を選んで、そうですね、4年って長いですねと答えた。でもお元気でした。来てよかったです。

「イケメン!きてたの」と、はーちゃんは目を輝かせて駆けより、隣に座った。

後ろを振り返ると、はーちゃんママはユウトくんと話をしていた。

ユウトくんは、お風呂がどんなに広かったか興奮気味に報告している。

 

次は夕飯ですーー移動します、と高田さんが集合をかけた。

外はもう真っ暗だった。駐車場を行き来する車のライトがせわしない。

子供たちがバスまで駆け出そうとするのを、体を張って女性グループが止めた。人間の壁作戦だ。

危ないでしょ、走らないのよ。

その横をすり抜けようとした小さな影を、私は掴んだ。

はーちゃん、ママとお兄ちゃんといようね、と掴んだ腕ごとママの方へ引き渡す。

ありがとうございます!ほら一緒に行こうね。

 

バスで宴会場へ移動する。

時間は20分ほどだったのが、バスの揺れが心地よくて、大人のほとんどは眠り込んでしまった。

しかし子供は元気だ。座った場所の関係で、いつの間にか子供たちと話をしたりゲームをしたりして打ち解ける。

ねえ、なんて呼べばいい?

子どもからしたら、私はお母さんより年上だけど、おばちゃんと呼んでは失礼だし…と悩み深い年頃だ。

そうねぇ、Mさんって呼んでよ。

Mさん、Mさん?

気絶しているような山田さんの膝の上に乗ったはーちゃんが、小さな声で言った。

 

そうしているうちにも宴会場にバスはつき、アルコールの応酬という昭和の風習が始まる。

はーちゃんは何とか山田さんの隣の席をキープしていたのだが、おじさんたちの「ここから先は大人の時間!子どもは邪魔」の一声で追い払われてしまった。

回ってくるビールのグラスを、受けないわけには私もいかない。

タイミングを見計らってトイレに立つと、宴会場の廊下で子どもたち全員で「だるまさんが転んだ」をしていた。みんな楽しそうである。

かつて見ていた風景が戻ってきたような気がした。