K明党に八つ当たり

義母のせん妄が激しい、らしい。

らしいとするのは、私と話しているときはまともだからだ。とは言っても、もう4年以上直接会っていない。電話で二言三言、日常会話を交わすくらいだ。

嫁と息子では気やすさも違うし、私と話す時にはまだ緊張感が残っているように思う。

だが、お願いしている介護事務所から連絡があった。

義母は、警察へ何度も電話しているらしい。

誰かがのぞいている。見張られている。家に入ってきた気配があるーーー

よくある高齢者の被害妄想、と最初は私たちも聞き流していたが、実害が出ては困る。

折しも、ルフィの強盗団がテレビで取り上げられていた時期で、万が一ということもあるからと、夫は頻繁に実家へ帰っていた。

「最近は言説にとりとめがなくなってさ、のぞいているのはK明党党員だと言い張るんだよ」

あ〜選挙近いから、じゃない?

だいぶ少なくなったとはいえ、地方では今でも昼間は選挙カーが走っているらしい。

家にいると思い出しちゃうんじゃないの?そろそろ、そういう時期だわね~って。

「どういう因果関係があるんだよ!」夫はイライラして声を荒げた。

そうか、昼間に家にいたことないから知らないのかな。

あのね、昔から選挙が近くなると、K明党っていうかS価学会信者が挨拶回りにくるのよ。

一軒一軒、投票お願いしますって。

お義母さん、目が悪くなって出掛けられなくなった頃、親切にしてくれる人がいたって言ってたよ。回覧板を隣に回したり、町会費を肩代わりしてくれたり。

ありがたいなぁって思っていたら、ある日曜日、車でお出かけしましょうって連れてこられたのが投票所で。

 

その人、車を降りる際に手を貸しながら、K明党に入れてくださいねって小声で言ってきたんだよ。親切だと思ってたのに、ちゃんと裏があったのさ。

それからも、ただで新聞配達してくれたり、買い物を申し出てくれたりしたけど、はっきり言ったのよ。

S価学会は嫌いだって。

そしたら、潮が引くように声もかけてこなくなったわ。

でもね、選挙が近くなると家の中をのぞいてくるのよ。

 

「そんなこと全然知らなかった」

夫は呆然と言った。

いや、聞いてたけど忘れたんだよ〜だって一緒にいたじゃん、この話してたとき。

「全然覚えていない」

まぁ、真偽はともかく、警察は困るね。

おおかみが来たぞ的なことに後々なったりしたら更に困るし。

ヘルパーさんはどうしているの?

息子よりも長い時間、ヘルパーさんの方が今はお世話になってるでしょ。

夫はため息をつきながら言った。

「言ってるよ、ヘルパーさんにも。K明党がのぞいてるって。

でもさ、せん妄激しい利用者さんは他にもいっぱいいるからって慣れたもんだよ。

そうですか、K明党がねぇ、それは困りましたね〜って上手に聞き流しながら掃除したり家事したりしてるよ。大丈夫ですよ、K明党にはよく言っておきましたからね〜って」

思わず笑ってしまった。

介護をしていると、こういうコントみたいな場面に出くわすことがある。

でも、それは傍観者の気やすさで、肉親にはたまったものではないのはよく分かっているのだけど。

「参っちゃうよな、アホなこと言うなよって、すぐ怒鳴っちゃうんだよ……

聞きながすって、どうしてもできなくて怒りが先に来ちゃうんだよ…

もう本当にK明党が憎いよ、全く関係ないのに腹がたつ」

そういう夫の顔は怒っていると言うより泣きそうだった。