市役所のカースト制度

雨の降る中、久しぶりにママ友と3人で集まり、ランチに行く。

近所の創作フレンチのお店がビストロ居酒屋に改装していて、話題になっていたのだ。

AちゃんママもBくんママも、息子が小学生の頃からの友達だ。

久しぶりー元気だった〜と言いながら店に入る。

改装したとは言っても間取りやインテリアはほぼそのままで、メニューだけが手書き二つ折りのブック型に変わっていた。

チラッと見て値段だけを確かめてから、パスタランチを3人とも頼む。

味にはそんなに期待はしていない。それより大切なのが情報収集というおしゃべりだ。

「Aちゃん、学校どうお? もしかしてもう受験体制なの?」

Bくんママがおっとりと話しかける。Aちゃんは規律の厳しい私立高校へ通っていて、毎日授業についていくのが大変だと前回のランチでママが嘆いていた。

「そうね、毎日大変よ。朝、0時間目っていう授業があって7時半から授業なの。お弁当作るために私も朝5時起きよ」

進学校は違うわねぇ、Bの部活の朝練のために、私も5時起きで弁当作ってるけど」

二人に合わせて、私も何となく笑う。

息子の学校は自転車で15分の距離なので、家を出るのが8時頃、Aちゃんが授業を受けている頃だ。そんなことはどうでも良いけど。

「そういえば、Cくんママにこの間、市役所で会ったのよ。びっくりしたわ」

「あれ? Bくんママ、Cくんママと知り合いだったっけ?」

「上のお兄ちゃんとサッカーが一緒だったのよ。市役所で事務のパートしてるんだって」

「えーーっ!この間、Dくんママも市役所で会ったよ!やっぱり同じ、事務パート始めたんだって」

言い合う二人を見て、何となく合点のいった私。

そうか、そうなんだな。

「このあたりでパートしてたママ達に、市役所で仕事しないかって口コミで回ってきたんだよ。実は私もCくんママに誘われたのよ」

「ええっ、そうなの?」

「でも断ったんだ…」

「何で〜?市役所なんて手堅くて良いじゃない! 知り合いが一緒なら、助け合ったりしやすそう」

「うーーむ、それはね〜メンバーによるよ…」

3人でうなづきあう。

あまり大きな声ではいえないが、Dくんママはトラブルメーカーで有名だった。

悪い人ではないけれど、火のないところに煙を立てがちなタイプ。

私は、Cくんママから聞いた実情を、どこまで話して良いか考えながら口を開いた。

「市役所のパートって一口に言っても、ヒエラルキーがあるんだっていうんだよ。一番えらいのはもちろん、正社員…じゃなくて正規採用公務員。歳が20代でも高卒でも関係ないの。次が古参のアルバイト。市役所の直接雇用で10年以上勤めている人、そこから下はもう全員、派遣社員。それも参入の順に微妙に時給が安くなってる。同じ派遣でも、リクルートの方がパソナよりちょっと時給良かったりする。

でもね、みんな同じ仕事してるんだって。不公平すぎて、ボーナス時期とかギスギスするっていってた」

「安くても、ボーナス出るなら良いじゃない」

「派遣には出ないよ〜でも公務員と直接雇用アルバイトには出るんだって」

「す、すっごい不公平じゃん…ストとか起きないの?労働組合とかどうなってるの?」

派遣社員労働組合はないよ〜もし何かコトを起こそうとしても、首切られちゃうからって総スカンだって。結構、地獄だよ、だって」

お待たせしました、とサラダとスープが運ばれてくる。

しばし無言で3人、レタスとトマトを突き、コンソメスープを飲んだ。

Aちゃんママが、あっと声をあげた。

「Uくんママも市役所パートにいるでしょ?」

UくんママはAちゃんママの天敵だった。

小学生時代、子供同士仲が良いことを理由にいつも一緒にいたので、ママ同士も仲が良いと思っていたら、卒業式の日に「あの人図々しいから嫌いだったわ」と聞いて、女同士の難しさをおもいしった。

「この間、スーパーでばったり会ったのよ。そしたら『働き始めたんだけど、今の職場、知り合いばっかりで居心地良いの!あなたも来ない?』って誘われたのよ」

「え〜断ったんだ、良い条件かも知れなかったのに」

「いやよ、あの人といると面倒なこと全部、私にふってくるんだもん、もう勘弁だよ。

事務仕事なんだけど、派遣だから面倒なことは『分かりません』で避けて済ませてるって笑っててさ」

「うわ〜Uくんママらしいね」

そう言いながら、Cちゃんママの「要領ばっかり良い人が得して腹立たしい」と言っていたことをチラッと思い出す。

 

もうね、役所に来るじーさんばーさんなんか

市役所の人間なんて奴隷みたいなもんだと思ってるのよ。

公僕とはいうけれど、私ら公務員じゃないのよ、派遣社員なのよ。

なのに、その派遣の中でも身分制度みたいなカーストがあって。

責任感が強い良い人ほど、耐え切れなくて辞めてっちゃうの。

何がそんなに嫌なのかって? 

なんだろ、積もり積もった日本の理不尽みたいなものかしらね。

竹中平蔵を恨むわよ〜五寸釘打ち付けたいもん!

 

Cくんママの独白を思い返していたら、パスタの皿を目の前に置かれた。

「美味しそう!」

市役所のような公共機関でも派遣カーストはあるのか。

もう本当に、日本は中抜き天国になっているんだな。

色々溜まって疲れ気味のCくんママに、今度お茶しようよ、と言ったら「元気が残ってたらね」と力ない笑顔で言われて胸が疼いたコトを思い出した。

元気かな。

ちょっとラインしてみよう。