葬儀の日 3

義母はネルのパジャマの上に紫色のフリースを着て、厚手の毛布にくるまって寝ていた。

もう6月だよ暑いんじゃない、と夫を振り返るが、寒がるんだよと言って、さらに毛布を首の下まで引っ張り上げた。

食事を摂れなくなって、点滴をするようになってから2ヶ月近く経とうとしている。体温を保てなくなっているのだという。

お母さん来ましたよ、おかあさん、夫は何度も大きな声で呼びかける。

目ヤニで開けにくそうだったが、しばらくすると義母は目を開けて、こちらを見た。

お母さんの瞳は青みがかった灰色で、ぼんやりとして焦点が合っていないようだった。

赤ちゃんみたいな目だ。

私、わかりますか、と何度か声をかけると、わずかにうなづき、ふわっと目元が綻んで微笑んだように見えた。

義母はもともと小柄で華奢な人だったけど、さらに痩せてしまっていた。

胸元に両手首を折り曲げるようにして重ね合わせている。枯れ木のようで痛々しい。

おかあさん、と言った後に言葉が続かなくて絶句してしまった。

来て良かったんだろうか。

ここに来るまでに何度か自問した。

義母は綺麗な人だったから、こんな自分は見られたくないと思っていたりするだろうか。

でも、思ったより病室は明るく顔色も良く、何も話せずとも約束を果たした満足感があった。

そう昔、私は約束したのだ。

最後の前には必ず会いにゆくと。

義母は瞬きしたかと思うと目を閉じた。

寝てしまう前に、子供たちにも会ってもらいたい、と私は病室を出て廊下で待っている二人に声をかけた。夫も一緒に部屋を出る。

入れ替わりに子供たちが入って、口々に話しかける。

おばあちゃん、来たよ。寝ちゃった?

義母はうっすら目を開けた。

病室の面会は二人までと決まっている。廊下の向こうのナースステーションが気になり、私は廊下にそっと出た。

だが、すぐに子供達は病室から出てきた。

おばあちゃん寝ちゃった、ちょっと苦しそうだよ。辛そうな顔だったね。

なんか言ってたよ。でも何言いたかったかは分からない。

え、本当に?

病室へ入ると夫はベッドの傍らに立ち、義母を見た。

もう随分、喋ってなかったのに。

孫と会えて嬉しかったのかも。良かった。

義母は首元を抑えて目を瞑っていた。

眉間に僅かに皺がよっているように見える。

おかあさん、待っててくれて、ありがとう。

直接言えて、会えて良かった。