116位

毎朝6時に起きて弁当を作り、6時45分に娘を送り出す。

その後は大抵二度寝してしまうのだが、今日はカリンさんがコメンテーターとして出演するというので、家事をしながらテレビ前で待機していた。

西村カリンさんはフランス人女性で、AFP通信の日本特派員記者。

美人で博識で流麗な日本語を話し、パートナーは日本人漫画家、息子さんが二人いるそうで、まぁ早い話がわたし、ファンなのです。

しかし、今回くらいガッカリしたことなかったなぁ…

全然話す機会を与えてくれず、何より番組の構成に失望した。

出演が贅沢な無駄遣い!!!としか言いようがない!

 

安倍元首相の銃撃事件のトピックがひとしきり話された後、申し訳程度にカリンさんに意見を求める。2分あったかないかくらい。

すぐに次の話題に移った。もっと突っ込んで話振ってよ〜と思いながらも、カリンさん今日もお美しいと見惚れる。

今日は夏らしいペールグリーンのトップス、いつものオニキスのペンダント。

やっぱりフランス人は服は15着しか持ってないのかなーーーなんて考えながら見ていると

次のニュースが流れ、画面に順位表のフリップが映し出される。

世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップの国別順位が、116位 ということだそうです。ふんふん、そのニュース前にも見たよ。

日本より順位が低い国は、いわゆる後進国、そして宗教の戒律の厳しい国だ。

日本は言論の自由も宗教の自由も認められている国のはずですよね…

どうしてこんなに生きにくい国になってしまったのか。

と考えている間にも、テレビの話題は次に移る。

もう?!一言カリンさんに聞いてよーーー!!なんのためにスタジオに呼んだんだよ!

もやもやしながら見ていると、今度は「サウナ女子」についてです、だと?

若い女の子が水着姿でサウナで寝そべっている姿がローアングルで映る。

…何考えているんだ、ジェンダーギャップを語ったその口で、今度は「女子」で「サウナ」か。あまりに馬鹿にしてないか?

怒りが募るあまり、つい口に出して「バカじゃないの!」と言ってしまった。

すると夫がのんびりした口調で「何が?」という。ムキーーー!!

「何がっておかしいでしょ!このリテラシーの低さ!だから116位なんじゃん!」

「まあまあ落ち着いて。怒ったって仕方ないでしょ」

なんで仕方ないのか。

分かろうとしないからじゃん!

ずっと心に溜めていた思いが一気に噴出してしまった。

「仕方なくないよ!いい加減に自覚して欲しいんだよ!

あんたたちが日常とする毎日は、私たちを犠牲にして成り立ってるんだってことを」

「はぁ?犠牲?何か我慢してるわけ?全く心当たりないんだけど」

夫の無邪気で能天気な顔、最高潮にムカつく。

しかし、逐一説明する気も起きない。

あああ…力が抜ける。

でもこうやって、日本中で流され、適当にいなされて、押し黙る現象が繰り広げられているんじゃないだろうか。

そして、それこそ116位の原因なのだ。

今日は勇気を出して言ってみることにした。

「犠牲になってないと思う? 私、毎朝6時起きで子供の弁当作ってる。その後も洗濯したり掃除したりシャツにアイロンかけたりしながら。今テレビ見てる。夜はバイトから帰ってくる息子のために12時まで起きて夕飯温めてあげてる。それ全部好きでやってると思う?」

夫はうんざり、と言う顔で言った。

「シャツにアイロンは自分でかけさせろよ、俺も自分のはする。夕飯も温めたり片付けたりしなくて良いだろ、本人にやらせろよ。ごちゃごちゃ文句言われるの腹が立つんだよ、気分良く生活したいだろ。テレビに言っても仕方ないじゃん。言っても仕方ない愚痴は言うなよ」

「ちょっと、やってあげてるのは仕方なくじゃなくて、試験前だからとか夜遅くで疲れているだろうからとか理由があるんだよ。そうじゃなくて感謝の気持ちってのないのかっつーの。

いつもニコニコ機嫌よくしてろ、文句言うなよムカつくとかってファシズムとどう違うんだよ」

「そこまで言ってないだろ…」

ゲンナリした顔で夫はテレビを見てる。

テレビには、もうカリンさんは映っておらず、若い俳優達が今日から始まるドラマの宣伝をしている。