オンライン三者面談

台風が東北・関東近辺に接近しているため、娘の中学校が終日閉鎖になり、三者面談がオンラインになった。

部活動は中止になり、先生方も自宅待機とのことだ。

学校の連絡通知がアプリにきていたのに、うっかり忘れていた。

朝になってから娘に伝えると「部活ないの?マジで?時間ないのに!」と焦っていた。

中三になってもまだ夏休み中の部活動があるのは、彼女の所属する美術部とサッカー部だけだ。

サッカー部は八月中に県大会があり、地区予選に勝ち残った3年生レギュラーは最後の試合と息巻いて練習している。そのサッカー部の顧問が、去年の娘の担任のK先生だった。せっかく勝ち上がったのに、感染防止対策で保護者も生徒も試合応援に行けないのは寂しいからと、特別デザイン応援フラッグを作ってくれ、と名指しで娘に依頼してきたのだ。

「1、2年生がやればいいじゃない。なぜ3年生のあなたがやるの?」

「だってK先生に、お願いデザインしてよー内申にかくから、って…」

それで夏休み中、午前中は部活だと言っていたのだが、台風で初日から中止とは出足からくじかれた感がある。

「でも面談はあるよ、オンラインだって」

「先生も自宅からなのかな」

「そうじゃない?でも本当に台風くるのかなーー雨でも強風でもないしね」

空は中途半端にグレーで、湿気だけは強い。

そろそろ指定された時間だと、娘と二人分の椅子をPCカメラの前に並べて座った。

学校からの指定で、自宅にいるのに娘は制服をきている。私もフォーマルな格好の方が良いだろうか?悩んで紺色のブラウスを着る。ボトムはハーフパンツだが見えないしいいか。娘も裸足だ。

二人で悩んで、オンライン背景を白っぽいインテリアの画像に設定する。

素のママだと後ろに在宅ワーク中のパパが映り込んじゃうので仕方ない。

時間だ、と娘のアカウントでアプリを立ち上げる。

すぐに応答があり、画面には青空と白い雲、椰子の木に打ち寄せる波が映った。

「プライベートビーチから、担任Sがお送りします。お元気でしたか?」

「………」

こんなにノリの良い先生だったっけなー、とぽかんと海を見ていたら、誤解されたようだ。

「すすすすみません!ご気分害されました?」

「いえいえ、素敵なご自宅ですねー綺麗な海!」

「いやあ、そちらも素晴らしいインテリアですね」

だっはっは、としばし茶番。

娘は白けた顔でカメラを見ている。

「えっと、進路調査表ですが…」

先生は本題にすぐ入った。

多分、学校側から時間に配慮するように言われているのだろう。我が家はwifiで繋がっているけど、モバイル経由など通信費のかかる家庭もあるに違いない。

昨年の自宅待機時に、義務教育援助費用としてパソコン費用と通信費が、困窮家庭には支給されるようになった。そういうところはフットワークが早い、わが市の自治体、ありがたいことだ。

しかし、面談の内容は薄かった。学校は受験対策などしてくれないし、先生だからって受験に詳しいわけではない。

通り一辺倒の志望校確認と、一学期の成績の評価について話すと「では、夏休み頑張ってください」と面談は終わった。

時計を見ると5分も経ってなかった。

「なんのためだったの、これ」

娘は憮然として制服を着替え始めた。

「まあまあ、先生もやりたくてやってる訳じゃないのだから…」

「消化試合か」

キツいなあ、志望校の一つに知り合いが勤務しているから、連絡とって聞いてみるっていってくれたじゃない、と思って娘を見ると、早々着替え終わり、宿題に取り掛かっていた。

部活に行きたかったイライラは分かるが、こちらに向けないでほしい。

外が明るくなって、青空が見え始めている。

台風の進路は東寄りに外れたようだった。

 唐突に、ああ日本全国こうやって家庭訪問とかもなくなっていくんだな、先生と直接話す機会もなくなっていくんだ、と思った。

それを「やった助かった〜」と思っている人たちもいるだろうな。

本当に、リゾートのプライベートビーチから仕事出来る時代になったんだなあ。

でも、それなら先生、パラソル差したグラスとか用意しておこうよ〜

ペットボトルドリンク丸見えは気分台無しだよーーほんと。