炎上する軽食のパンとチーズとプリン

九月に入ってから、娘の中学は、午後の授業だけ選択オンライン授業になった。

感染防止策で時間差登校にし、密になることを避け、午後のオンライン授業は学校に残っても帰宅してから受けても良い、ということだ。

部活のある中一、中二はそのまま教室に残って、部活引退した中三は帰宅してPCで配信授業ということらしい。

 

午前中は先生も生徒もマスクをつけ、可能な限りソーシャルディスタンスをとって、普段通りに授業をする。

そして、昼食時間短縮のために、給食を中止して軽食を出す。

献立はパンとチーズと牛乳、1年前の緊急事態宣言明けと同じ献立である。

アレルギーがあるなど食べられない子は自宅から持参すること、とのことだが、アレルギー届けのない中学生は、学校への食べ物持ち込み禁止である。

健康体で普通の中学生だったら、こんな献立では空腹いやすどころか刺激するばかりでは。

中途半端な空腹を抱えて、午後に授業をするなど不可能に近いだろう。

しかも午後の授業は、オンライン配信といっても映像授業を教室で黙って見てレポートを書くだけだという。寝ないで受けられる子、いるだろうか?!

しかも、その後の部活動は平常通り行われているのだ。

もう、それって拷問である。

あまりにひどくて、クラクラする。

マスクを外す給食時間が一番感染しやすいので、用心して軽食にし、昼食時間を縮めるということだったが、全員前を向いて黙食なら、軽食も給食も変わらないだろう。

八月後半から感染者の陽性率がぐんぐんあがっていたから、オンラインにして欲しいとは思っていた。しかし、今回の教育委員会の対応には疑問ばかり感じて腹がたつ。

全面オンラインにはせず、何故にこんな中途半端な対応になったのか。

 

せめて軽食なんて中途半端な対応はやめて欲しい。

しかも全部乳製品。栄養管理士さん、どうしたのよー

牛乳アレルギーの生徒は、毎日お弁当を持ってきて羨ましがられているそうだ。

帰宅するなり、娘は「しょっぱいものが食べたいよ!保護者からクレームがついたらしく1品増えたんだけど、いちごジャムなんだよ〜甘いものばっかり」と文句を言いながら、私の差し出したおにぎりをぱくついた。

娘は急いでかきこみ、PCを開く。

授業は映像配信だけど、最初の10分のみ対面ライブで出席をとる。出席を確認したら、先生の作った映像を見て、ドリルやPDFの問題を解き、メールで提出するのだ。

去年の自宅待機のときは、初めてのことが多くとまどったが、今回はもう一年近く準備を重ね、学校で配信の演習授業をしてきたので問題はない…はず。

しかし、映像は先生が手作りした簡易なもので、内容も長くて20分ほどだ。それ以上だとPCに読み込むのも大変だし、生徒もあきてしまうらしい。

中学はまだ良い。

小学生、特に低学年は集中力が続かず、PCだけで授業をするのは難しい。

画面のはしばしにママたちが右往左往して、背後から見守っている(監視している?)のが垣間見えて、先生たちも毎日が授業参観気分…だという。

 

しかし、そこまでしてもオンラインでなく対面授業したい理由は、昨年の緊急事態宣言明けの学科考査が、あまりにひどかったからだ。

5教科500点満点で、50点以下の生徒が三分の一もいた。

つまり、100点満点のテストで10点とれない(しかも5教科で)生徒を増殖させてしまったのだ。

これは、教職員も保護者も、生徒自身もびっくりだった(笑)

…いや、笑い事ではない。

やっぱり目の前で先生が教えてくれないと緊張感なくて、自宅で勉強するのは、よほど自律心ないと難しい…と思いしったのだった。

それにしても、この軽食はひどい!と親子で話していたら、その週末、我が市の教育TOPがテレビ番組に出演して「我が校は感染防止に気配りして、オンライン授業、簡易軽食をやっています」とアピールしたらしい。

番組放映後、「こんな粗末な食事、刑務所か?!」「かわいそう。戦後の給食よりひどい」「なぜドヤってる?」と保護者だけでなく全国から苦情と抗議が殺到し、炎上したと聞いた。

次の日、軽食の献立を変更し、週明けからは給食を復活します、と教育委員会からお知らせがきた。

「世間の声は強いなー、炎上のおかげか、軽食にまた1品増えてた」と帰宅するなり娘は言った。が、自分でお湯を沸かしカップラーメンを食べてる。

「パンとチーズと牛乳とジャム、それ以外にコロッケとかおかず系でるようになった?」

「いんや、プリン。献立決めるヒトが甘いもの好きなのかなー。せめてさ、魚肉ソーセージとか欲しいよ!」

あっという間にラーメンを平げスープを飲み干し、娘は午後の授業の用意をし始めた。

ふと、娘が顔をあげて私を見た。

「町内会で一緒だったレイ君、覚えてる?」

3年前、私は町内会役員をやっていて、地域の小学生のまとめ担当だった。

レイ君は元気いっぱいな男の子で、イベントのたびにやんちゃで周囲を引っ掻き回していた。確か、今年から中学生だった。

「覚えてるよ、あの元気な子」

「今日帰りに見かけたら、しょんぼりして歩いてたからさ、声かけたんだ、久しぶりって。学校どう?って聞いたら、つまんねーー給食だけが楽しみなのに、パンとチーズしか出ないしさって。レイ君、給食大好きなのにすっごくやせてるんだよね」

給食からしか、食事がとれない児童がいる。

そう思いついて、はっとした。

そうか、苦肉の策だったのかも。でも、それならテレビなんかに出るなよ〜

「デザートはつくようになったよね〜って話してたら、明日は芋羊羹なんだってレイ君が言ってた。そんなんで腹の足しになんねーよ、肉食わせろ!って」

「育ち盛りにはつらいよねぇ」

「そうだよ、タンパク質とミネラル欲しいよね! 乾き物じゃないとだめならビーフジャーキーとかサキイカとかピーナッツとか欲しいねーって話したら、かーちゃんのつまみみたいだなって笑ってた。あ、やば!遅刻しちゃう」

イヤホンを耳に押し込めながら、娘は生真面目な顔をして画面に向かう。

 

次の日、軽食は中止になり、平常通り給食に戻すことが決まった。

娘の言う通り、世間の声は強い、だ。

かなりの数の苦情や抗議が殺到したのだという。

しかし、全員黙って前を向き、15分で食事をかきこむ子供達を思うと複雑だ。

楽しく食事しないと栄養にならない、なんて家庭科で教わっているのは何だ、と矛盾を感じる。

 

買い物の帰り、並木道に漂う甘い香りに気がついた。

金木犀だ。

今年は随分開花が早い。

本格的に秋になったんだなと思いつつ、冬が早く来るかもしれないとも思う。

今年の夏は去年より過酷だった。

この過ごしやすい季節を少しでも長く楽しめますように。

誰に願うわけでもなく祈る。