ウィルスのサイン

夜中にふと目が覚めると、鼻の下から上唇の稜線にかけてピリピリした感覚があった。

やばい、気をつけてたのにな〜

疲れたり睡眠不足が続くと、口唇ヘルペスを発症する癖がある。

10年程前、こじらせて顔面中に広がり、鼻の穴や口腔内、まぶたの裏や目頭にも水疱が及んだことがあり、駆け込んだ皮膚科で「失明することもあるから甘く見ないように」と脅された。

失明までは至らなくとも、瞼の裏や鼻の中、口中にも水疱がびっしりできて、息をするのも瞬きするのもヒリヒリして辛くて苦しかった。

あんな目にはもうあいたくない、と予兆がある度に薬を飲んで何とか回避してきたのに。

油断していた〜

起き上がって鏡を見ると、上唇がサザエさんに出てくるアナゴさん状態だった。

右側上唇だけ水風船のような張りがあり、赤く腫れている。

触ると、ギターの弦を弾いたときのような刺激が顔面に響いた。

一応、気休めに薬を塗り込む。

抵抗力が落ちているんだな。

まずい、今の感染状況でウィルス持ち込まれたら負けちゃいそうだ。気を張らないと。

感染者が急激に増加して10万人に迫る勢いだ。

今、コロナ感染して陽性になったりしたら非常に困る。

来週から子供達の合宿、旅行と立て続けに予定があるのだ。

 

大丈夫、大丈夫。

何とかなる。

言霊を唱えて横になる。

唇の先がジンジン脈をうってアンテナのようだ。どうしても意識が集中してしまう。

気を逸らそうと外の音に耳を澄ませた。雨はやんだみたい。

窓を見上げると、空の一部がぼんやりと膜がかかったように白くなっていた。

そういえば昨日はスーパームーンだった。

分厚い緞帳を照らすスポットライトのようだ。

違うか、光源が雲の向こうにあるのだから、どちらかといえば雪見障子かな。

Silver lining in the cloud.

ふと頭の中に言葉が浮かんだ。

あの雲の裏側には輝く銀色の光がある。

何だっけ、明るい兆しとか希望とかの意味だった。

とりあえず寝よう。

ヘルペスくんがお出ましになるとき、それは「休め」のサインなのだ。

考えても仕方ないのだ。

今やらなければならないことをやるだけなのだから。