山の中腹、切り立った崖の上に小屋がある。
その小屋は、山の中に半身を埋め込んだような形で建てられていた。
出入り口の引き戸を開けると一段高くなった一間の部屋があり、竈門をしつらえた土間が玄関から続いている。
土間の奥に板戸があり、開けると簀をしいた物置になっていた。真っ暗で奥行きもわからない。
山の中腹に掘られた横穴部分が物置として使われている。夏でも涼しい特性から食料倉庫として使われていた。漬物のかめや保存食の入った箱、大工道具などが、壁に作り付けの棚に整然と並べられている。
簀は井桁状に並べられている。部屋の奥の簀板にだけ、指を入れる穴がひとつ空いていた。
人差し指を引っ掛けて上に上げると、簀の下にポッカリと空間があった。
穴はかなり深く広くて、遥か下に床が見える。そこへ飛び降りるには高さがあるので躊躇していると梯子がかけられた。
上から手燭で照らしてもらいながら梯子を降りると、空間は奥へと広がっていて、先の方は見えない。奥へ進むと、ぼんやり明かりが見えてきて、壁に燭台があった。
暗い通路の明かりをたどりながら進むと、突き当たりの壁に大きな木製の十字架が打ち付けてあった。十字架は裏側から青い明かりで照らされている。広くない空間に、2、3人がひざまづき、祈っていた。誰に言われたわけではないが、ここで言葉を発してはいけないことを察し、無言でひざまづいて私も祈った。
…何に何を祈ったのだろう?
ふと顔を上げると、手燭を持った男が私を見ながら顎を上げた。上へ戻れ、ということらしい。きた通路を戻ると何人か行き違った。お互い目を合わせないように顔をそむけ、すれ違う。見知った女性がいたような気がして、つい目で追うが、向こうは気づかないふりをしていた。
梯子を登って簀の上にあがった。
「よく漬かってたが?」簀の上で待っていた男が私に聞いた。
「うん、漬けてきた」と答えながら振りむくと、男は穴の中に消えた。
簀の上にはもう一人、待機していた。黙ったままピクリとも動かず、下を向いていた。
土間へ戻ると、おばあちゃんが鍋に湯を沸かしていた。
「初めてだったが?」話しかけながらも手を休めずに、はしで鍋をかき回している。
「あそこは先代が譲り受けたときに、中はそのまま皆さんに使ってもらう約束したんだ」
「山の中になるんだよね?」と聞くと「いや、崖の上だ。あの青い卒塔婆見ただろう?あの裏から外へ出られる。峠の道の裏に出られるんだ」
峠の道?何の話だっけ、と台所の土間に薪が積んであるのを見ながら、ぼんやり思った。
そこで目が覚めた。
隠れキリシタン、だろうか。
こんな夢は初めて見た。
ディティールがあまりにはっきりした夢だったので、起きた後も印象に残って忘れられなかった。
私は何を祈ったのだろう。
自分のことなのに覚えていない。