夢の堆積物

不思議な夢を見た。

 

暗い穴底に降りてゆく夢だった。

大きな井戸のような円形の壁に沿って、小さな突起のような階段が螺旋状に作りつけてある。

片足がやっと乗るような狭い階段を、壁にしがみつくような姿勢で、おそるおそる降りてゆく。

 

 

階段を底まで降り立つと、硬い石畳の床の上にぼんやりと一つだけ灯りが見える。

ゆらりと動いて、近づいてくるとランディさんだった。

「わざわざ、ここまでごめんね、持ってきてくれた?」と声をかけられる。

意味がわからずにおろおろしていると、くるりと後ろを振り返った。

ダンボールなどを運び出す大きめの台車が停めてあり、鉄柵の間から色々なものがはみ出ていた。そのうちの一つを、ランディさんが覗き込む。

「あーーこれじゃないんだなぁ、似てるけど、あのオレンジ」

台車の一番上に、白地にオレンジのストライプの入ったタオルが広げてあった。15cm幅白地と1cm幅のオレンジのラインが交互に入っている。こんなタオル、持っていたかな。全く覚えがない。首を傾げて考えていると、ランディさんは台車の裏に回り込み、何かを探しているらしいが、暗くてよくわからない。

「あったあった。これこれ。これが欲しかったの、このオレンジ」

ランディさんは、私の前にオレンジ色の小さな毛布を広げた。

それは息子が産まれたときに買ったベビー毛布だった。子供達が小さい時は昼寝のときに、大きくなってからは膝掛けにと重宝した。長年使っているうちに毛玉ができてシミがつき、すりきれやほつれが気になりはじめ、随分前に処分したはずだった。

しかし、目の前の毛布は、新品のようにふっくらと布地にハリがある。

別のものかな…と思いながら見ていると「もらっても良いかな、このオレンジ色がちょうど良くて」とランディさんはニコニコしている。もちろん、どうぞ。でも私のものなのかわからないけれど…

目が覚めてもしばらく、あの暗闇の中で広げられた鮮やかなオレンジが目に焼き付いていた。

 

レギュラーの夢、というものがひとにはあるのだろうか。

繰り返し見るモチーフや状況の夢が、自分にはある。

エレベーターだったり、空を飛ぶことだったり、試験の当日だと焦る夢とか

暗闇に降りてゆく夢は、その一つだ。

 

闇に降りる夢は、印象的だ。

私の夢は大抵が視覚に特化している。音や匂いや味を夢で味わったことはない。

サイレントムービーを見ているようだ、というのが私の夢の実感だ。

でもこの夢の中では、唯一触感だけは残っていて、見えない闇の中を手探りで進んでゆく夢なのだ。

 

でも今日の夢はイレギュラーな定番だった。

オレンジの毛布。

何か意味があるのだろうか。

しばらくオレンジ色に気をつけてみよう。