新年会2024

あけましておめでとうございます  …とはいっても実感がない。

12月はずっと体調不良で、寝たり起きたりを繰り返し、アトピーは今までこんなに酷くなることがなかったくらい最悪の状態で、忘年会では初めてお酒で粗相するという失態をやらかした。バタバタしてて、大晦日ギリギリまで掃除してて、気づいたら新年でした。

とりあえず、1日は実家に新年の挨拶に行き、2日は恒例の親戚大集合の新年会へ行く。

この新年会は、祖父母が生きていた頃から続く恒例行事で、父方の親族が一堂に介す。

昭和の時代、嫁にいった父の妹二人にとって、それぞれの夫と子供達を連れて自分の実家に帰ってこれる絶好の機会だった。

そうやって毎年続けてゆくうちに、祖父母は他界し、私たち孫6人もそれぞれ成長し結婚して子供ができ、気づいたら総勢28人の大所帯になっていた。

さすがに普通の民家に集まるには限界が見えてきたので、今回はレンタルスペースを借りて仕出し弁当と缶ビールを持ち込んでの新年会となった。

場所や料理の手配や、ひ孫たちの退屈しのぎのゲーム企画運営まで、担ってくれたのは今年社会人になったSちゃんである。

えっっ?もう働いてるの?こないだまで高校生だったよね?

時の流れの速さに想いをはせてしまう。

 

従兄弟たちと数年ぶりに顔を合わせる。

この新年会もコロナで休止していたので、記憶の中と目の前の相手とのギャップを擦り合わせるのに少し時間がかかった。みんなに等しく時間が過ぎたのだ。

髪の毛に混じる白いものが増えたり、シワが深くなっていたり、または白髪染めをやめて真っ白になっていたり。

子供達は成長著しくて、前回会った時はおむつをしていた赤ちゃんが春には入学式だという。

うわ〜もうそんな年なんだ!でも少し楽になるかなぁ。

いやいや小学校に入るとかえって親の役目が増えて大変だよ、仕事と両立がますます大変な時期になってくよ。

従兄弟のMちゃんの声が聞こえて、目を向けてびっくりした。

疲れ切って、痩せ細った姿がそこにあった。

頬がこけて目が落ち窪み、皮膚が乾燥して干し柿のような粉を吹いている。ブカブカのセーターから枯れ木のような手首がのぞいていた。

えっ、大丈夫? 

思わず声をかけると、私飲んでないよ、お酒飲めない体質だからさ、と笑って答えた。

ウーロン茶を飲みながらMちゃんは話を続ける。

小学校が一番、両立は大変だったなあ。

でも今はPTAってコロナで縮小されてほとんどないんでしょう?学校側も揉め事は勘弁って穏便にことを運ぶから、楽になったって聞くけどな。

Mちゃんちは子どもが高校生だっけ、その年頃になると年に何回かの三者面談以外は学校にも行かないし、もう大分楽になったかな、と聞いてみる。

ううん、どうかな、今年は仕事が忙し過ぎて月の残業時間が90時間に達しちゃって…

言いながらMちゃんは、目の前に並べられたカップケーキに手を伸ばした。

これ有名なお店のスィーツだよね、美味しい。

ええ?ってことは1ヶ月毎日、9時10時過ぎまで仕事してたってこと?子供達のご飯はどうしてたの? 聞かずにはいられなくて矢継ぎ早に質問してしまった。

ご飯は週末に1週間分まとめて作り置きして、献立決めておくの。パパが在宅勤務だから、夕飯あっためて食べさせてもらって。

そうかぁ、良いパパだねえ。

Mちゃんは片頬だけで笑って、ケーキにかぶりつきながら言う。

毎日夕飯の時間までに今日は帰るって思いながら仕事してるのに、なかなか…ねえ、これ美味しい。

しばらく無言で咀嚼し、飲み下す。ごくん。Mちゃんは続けて言った。

去年までは派遣社員だったんだ。大変だったけど、定時の5時には帰れたし、子どもたちの学校行事には参加できるよう有給も取れたし、それなりにやりくりできたんだよ。

それがウクライナ侵攻やら円高やらで急に仕事内容の難易度が増して、毎日残業しないと間に合わないようになっちゃって。

気づいたら、みんな割に合わないって辞めてて、部署に私一人になっちゃってた。

派遣では裁量がおりないからって正社員にしてもらえて、お給料も上がって良かったんだけど、さらに大変になって、クライアント40社を一人で回すようになっちゃってた。

さすがに一人じゃ無理だからって、派遣でも契約でもいいから人員補充をお願いして、この一年、いろんな新人さんが入ってきて、イチから教えてきた。

でも、みんな辞めてっちゃうの。

続いた人でも3ヶ月、早い人は1週間で来なくなる。

みんな言うの、こんなことできませんって。

できるよ〜だって私、やってるじゃない!

 

う〜〜〜〜〜〜む。

何とも返事しがたく、呆然とMちゃんと向かい合っていると、従兄弟のJちゃんもカップケーキに手を伸ばした。

わ、ほーんと美味しい!すごいバターの量、じゅわって口の中でとろけるね

JちゃんはMちゃんより3,4つ歳が上で、ふっくらとしたピンク色の肌艶や頬の色、たっぷりしたワンピースの背中のラインが、昔と変わらないおおらかな性格を感じる。

どうしたのよぅ、そんなに痩せちゃってさ、身幅なんて私の半分もないじゃん。

そんな仕事辞めちゃいなよ、だって幸せそうに見えないよ。

人生さ、美味しいもの食べて、面白いもの楽しいことしてなんぼ、じゃないの。

子供なんてさ、いつかは巣立ってゆくものなんだから、ほっといても大丈夫だけど、自分の体は一つなんだよ。替えがきかないの。大切にしてあげなくちゃね。

う〜ん、美味しい、とあっという間にJちゃんの口の中へケーキが消え去り、もう一つ手にとって言った。

このわがままボディを維持するのも大変なのよ、なんせ美味しいものだけでできてるからね。

Mちゃんんは毎日、美味しいもの食べたいもの食べてる?

面白いドラマ、見るの楽しみにしてたりする?

 

そうね、今年は本当に忙しくて、ドラマを見るのも帰宅して遅い夕飯食べながらだったり、何週分も撮り溜めちゃって追いつけなくなっちゃったりしたので、夫のTくんがタブレット買ってくれたんだ。これで通勤時間とか休み時間とかに配信でも見られるでしょって。

良い夫じゃん〜ヒューーー!

えへへ、ようやく笑ったMちゃんの顔に笑い皺がよる。

今年、何のドラマが良かった?

虎に翼と光る君へ。

間髪入れずに私が答えると、あーーNHKねーー見てないわぁとその場にいたみんなから否定される。そう、この集まりではいつも私はマイノリティなのだった。

だって、どっちもイケメン出てないじゃん〜と言われ、項垂れる私。

みんながあげたドラマは全部、地上波のドラマで、どれも見ていなかった。

 

あはは、私もまともに見てなかったなあ、ああ月曜から仕事、嫌だなあというMちゃんに、とりあえずさ、定時で帰れないような仕事は断りなよと言った。

え、でもそうしたら全部断らなくちゃならなくなるよ。

断れる範囲からでいいからさ、少しづつ仕事減らしていくんだよ。

そうしてできた時間でさ、テレビ見るのもお芝居見るのも良いし、ディズニーに行くのでも良いよ。自分のために時間を使ってね。子供のためじゃなくてね。

Mちゃんは、美味しいもの買いに行きたいな、と言ってもう一つケーキを手にとった。